2025/11/05

存 在

存 在

茨木のり子『歳月』より 

あなたは もしかしたら
存在しなかったのかもしれない
あなたという形をとって 何か
素敵な気がすうっと流れただけで

わたしも ほんとうは
存在していないのかもしれない
何か在りげに
息などしてはいるけれども

ただ透明な気と気が
触れあっただけのような
それはそれでよかったような
いきものはすべてそうして消え失せてゆくような