(続き)「そして知識として道徳教育を行っているにすぎないから、列に並ぶこと、遅刻しないこと、ハンカチを忘れないこと、それだけに意味を置く社会になっているのではないかとも考えた。規律を守ることのみが重視され、その価値観に基づいてあらゆることが白黒付けられていくと、一度失敗しただけの者に対して「一斉攻撃」を仕掛けることにためらいがなくなってしまう。事実、今のメディアやSNSにその状況が表れている。言ってみれば、不注意への袋叩き状態を認める社会だ。その行為は自分の主体的な行動などではなく、強権への無自覚な加担にすぎない。
学校のために生徒に頑張らせるとか、国のために勉強させることはあってはならない。国のため、学校のため、それらは言葉としては悪いものではないけれど、それが教育のすべてに当てはめられていくのは間違いである。しかし、そういう傾向に社会全体が向かっているような気がしてならない。これが極まると、独裁国家になる。融通の利かない、失敗に不寛容な、一つの正しさだけを価値とする、自分ファーストの社会だ。現在、世界がその傾向にあればなおのこと、教育を型にはめることのないようにしなければならない。」
渡辺憲司著「生きるために本当に大切なこと」