少し風のある日の雲を眺めてみなさい。
はるか上空でゆっくりと動く雲。
いったい何を運ぶのか。
大地をうるおす、いのちの滴(しずく)か。
あるいは、君の夢か、希望か。
君は、雲に何を想うのか。
何を託すのか。
イ(にんべん)に夢と書いて、
儚(はかな)いという文字ができる。
人の夢は、果たして本当にはかないのか。
私はそうは思わない。
人は何かを失い、何かを欲して、
夢を形づくるからだ。
現に私たちの歴史がそうだったではないか。
失うことは始まりでもあるのだ。
もう一度、向き合ってみなさい。
自分が失ったものや、
自分に欠けていると自覚したものと。
鏡に映る喪失の向こう側には、必ず欲求がある。
その欲求に正直になろうじゃないか。
もちろん、長い人生は楽しいことばかりじゃない。
幾多の悲しみや苦しみに遭遇する。
しかし、心に空いた穴にも、夢は必ず芽吹く。...
渡辺憲司『海を感じなさい。〜次の世代を生きる君たちへ』