杵次「薪はすこしだ。一時にあんまりくべちゃならん」
純「ハイ」
――立ちあがり、周囲をぐるっと見まわす。
風の音。
音楽――いつかやんでいる。
杵次「むかしはずうっと、うっそうたる森じゃった」
純。
純「ここが――ですか?」
杵次「うン」
純「――」
杵次「熊が遊んどった」
純「――ここらで?」
杵次「ああ」
純「――」
杵次「もともとここらは、熊の土地じゃった。
純「――」
杵次「人間が来て勝手に――熊を追いだした」
純「――」
風の音。
杵次「この奥に古い切り株がまだあろう」
純「ア、ハイ」
杵決「五百年はたっとった。桂の大木で。わしらが鋸できり倒した。そりゃあほえるようなすごい声をたてた」
純「――」
杵次「まだあの声は――耳についとる」