石川逸子遠くのできごとに人はやさしい(おれはそのことを知っている吹いていった風)近くのできごとに人はだまりこむ(おれはそのことを知っている吹いていった風)遠くのできごとに人はうつくしく怒る(おれはそのわけを知っている吹いていった風)近くのできごとに人は新聞紙と同じ声をあげる(おれはそのわけを知っている吹いていった風)近くのできごとに私たちは自分の声をあげた(おれはそのわけを知っている吹いていった風)近くのできごとに人はおそろしく私たちは小さな船のようにふるえた(吹いていった風)遠くのできごとに立ち向かうのは遠くの人で近くのできごとに立ち向かうのは近くの私たち(あたりまえの歌を風がきいていったあたりまえの苦しさを風がきいていった)―詩集『子どもと戦争』