2025/03/31

先頭から読む

絵画は全体が我々の目の前にあり、必要に応じて、どの部分でも見ることができます。目を左から右へ走らせることも、逆に右から左へ走らせることもて きます。上から下へ、時には下から上へ点検してもよいし、左上に描かれた雲の次に、中をとばして右下の花を見てもそれなりの理解は得られるのです。
しかし、言葉はちがいます。言葉は口に出した次の瞬間には消えてしまう点で、むしろ音楽に似ています。はじめからその流れと順序に従って読み考えるだけが理解の方法です。テキストをあちこち眺めて、前後のつながりもなしに食べ散らしてはいけない、先頭から読まなくてはいけないと、私が口ぐせのように言うのはそのためなのです。

伊藤和夫「英文解釈教室 基礎編」より