田坂広志著「叡智の風 50の物語」
(IBCパブリッシング)より
「百足」と書いて「ムカデ」と読む。この不思議な虫の、苦難の物語です。
ある暑い夏の日、ムカデが一生懸命に歩いていました。すると、通りかかったアリが言いました。
ムカデさん、凄いですね。
百本もの足を、
絡み合うことなく、
乱れることもなく、
整然と動かして歩くなんて、
さすがですね。
その誉め言葉を聞いて、ムカデは、ふと考えてしまいました。
なぜ、自分は、
これほどうまく
百本の足を動かせるのだろうか。
アリさんの言うとおり、
絡み合うこともなく、乱れることもなく、
なぜ、整然と動かして
歩くことができるのだろうか。
そう頭の中で考え始めた瞬間に、ムカデは、一歩も動けなくなってしまいました。
先ほどまで、何の苦もなく無意識に動かしていた足を、一歩も動かすことができなくなってしまったのです。
このムカデの姿は、我々の姿に、似ています。
自意識の病。
その病によって、我々は、いつも、力を発揮できなくなってしまうのです。