2023/08/09

午前 11時 2分

『第二楽章 ヒロシマの風 長崎から』
(スタジオジブリ, 2015)より 

帰り来ぬ夏の思い
下田秀枝

一、黒い雨の降りしきる中
ぼくは母さん 探しています
  のどがからから
   水が欲しいよ 母さん
  やけどの手足が
   ひりひり痛いよ 母さん
  さっきの青空
   どこへ消えたの 母さん
母さん 母さん 母さん
お願い 返事をしてよ 母さん
なんだかぼくは
    もうぼくでなくなるよ

二、炎の雨の降り注ぐ中
ぼくは母さん 探しています
  回りがだんだん
   熱くなってくよ 母さん
  ぼくのおうちは
   どこへいったの 母さん
  さっきの話の
   続きをしてよ 母さん
母さん 母さん 母さん
早くここへ来て ぼくを抱いて
もうじきぼくは
    もうぼくでなくなるよ

三、目を閉じて ごらんなさい
見えるでしょう 炎と灰に埋もれる街
聞こえるでしょう
 母の 子どもの すすり泣き
帰り来ぬ夏の
  あの呪い あの思い

『原爆詩集 長崎編』より