2013/11/27

ロジャー・パルバース

宮沢賢治の『雨ニモマケズ』を含む詩編を翻訳した "STRONG IN THE RAIN ~ SELECTED POEMS (Bloodaxe, 2007)" で,ロジャー・パルバースさんが,今年の野間文芸翻訳賞(講談社主催)を受賞しています。
 
9月16日,ロジャー・パルバースさんの出身地ニューヨーク,ジャパン・ソサエティで,その贈呈式が行われました。その詳しい模様についてはこちら(Japan Culture NYC)にあります。
 
野間文芸翻訳賞で,英語が対象言語になるのは,10年ぶり5回目のこと。前回2003年には,村上春樹の「ねじまき鳥のクロニクル」を翻訳したジェイ・ルービンさんが受賞しています。以来10年間に出版された英訳書300冊の中からの選考でした。
 
宮沢賢治作品の翻訳で知られるパルバースさん。
 
「銀河鉄道の夜」や「注文の多い料理店」や「セロ弾きのゴーシュ」などの物語だけでなく,独特の表現満載の賢治の詩もたくさん翻訳してきました。
 
以下は,『修羅』序の冒頭部分ですが,次のように始まります。
 
わたくしという現象は
仮定された有機交流電灯の
ひとつの青い照明です
  (あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといっしょに
せわしなくせわしなく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電灯の
ひとつの青い照明です
  (ひかりはたもち,その電灯は失われ)
 
どうでしょうか。ネイティブの私にとっても,一読しただけでは難解で,パルバースさんのコメンタールと,英訳を読み比べてみてはじめて理解が少しは深まった気がします。
 
日本語と英語(英語と日本語)は,互いが補完し合いながら,両言語同時に鍛えられていきます。
 
ゲーテの言う「外国語を知らないものは自国語についても無知である」がまさに実感できる気がしますね。
 
さて,「雨ニモマケズ」を英訳するとどうなるか。それはまたの機会にします。えっ,^^);/
 

贈呈式のスピーチの中で,パルバースさんが翻訳をする際の最善の方法について語っている箇所を備忘のためにメモしておきます。

「その人になる」
 "Kenji’s poetry is not easy to translate,” says Pulvers. “He uses some Iwate dialect, and he uses some onomatopoeia that he’s made up, which is very tricky for the translator . . .
There’s only one way to translate anything like [poetry], and that is to become the person. I mean it. From the time that I’m translating, I think I’m Miyazawa Kenji. That’s why you should translate only literature you truly worship and love." 
「賢治の詩を翻訳することは簡単なことではありません。賢治は岩手の方言も使うし,彼が創作したオノマトピア(擬音語・擬態語)も使います。オノマトペは,翻訳者泣かせなんです。
詩などの作品を翻訳するには,最良の方法があります。それは,原作者本人になりきることです。本当ですよ。翻訳しているときから,私は,自分を宮沢賢治だと思っているんです。ですから,心から敬愛し大切に思っている作品しか翻訳できないものなのです。」

中央が野間文芸翻訳賞受賞作品
"STRONG IN THE RAIN ~SELECTED POEMS"

旅に出るときには,必ず本を一冊持っていきます。先月の花巻へは,この受賞作品"STRONG IN THE RAIN"を持参するにはしましたが。。。 ^^); 

そういえば,2年半前にボランティアで東北に行った時も,パルバースさんの本だった。あのときは,余震も頻繁にあって,なかなか寝付けずに,懐中電灯の明かりをたよりに寝袋の中で読んでいたっけ。

古今東西の名言200を集めた「英語で味わう名言集」という本でした。以前,紺野美沙子さんと一緒に司会をされていたNHKの番組内容をまとめたもので,「名言」を集めた本の中では一番のおすすめです。


以上,書き連ねてしまいました。「銀河鉄道の夜」,読み返そっと。