「誰でも歩くことはできるが,歩くときの筋肉の動きを説明できる人は少ない。呼吸は生存に必須の要件であるが,そのメカニズムを解明できる人はまれである。生活に必要な活動であればあるほど,その過程は無意識の底に沈んでいる。しかしこれらの生得の活動の場合と違って,幼児期を過ぎてからの外国語学習では,意識の底にやがては定着し知らず知らずに働くことになる頭の動きを一度は自覚し,組織的に学習することが必要である。「言語はもともと自然界の事物と違って,単語の意味から語法のはしばしにいたるまで,長い時間をかけて成立した社会的な約束の集積であるが,これらの約束は雑然たる集合ではなく,基本的な約束と派生的な約束,必然的な約束と偶然的な約束が集まって1つの有機体を構成している。言語が使えるとはこの有機的体系が自己の血肉となっていることであり,英語の学習とは英語の約束の体系に自己を慣らすことである。」伊藤和夫『英文解釈教室』