茨木のり子(倚りかからず,筑摩書房,1999)
ある一行
一九五〇年代
しきりに耳にし 目にし 身に沁みた ある一行
〈絶望の虚妄なること まさに希望に相同じい〉
魯迅が引用して有名になった
ハンガリーの詩人の一行
絶望といい希望といってもたかが知れている
うつろなることでは二つともに同じ
そんなものに足をとられず
淡々と生きていけ!
というふうに受けとって暗記したのだった
同じ訳者によって
〈絶望は虚妄だ 希望がそうであるように!〉
というわかりやすいのもある
今この深い言葉が一番必要なときに
誰も口の端(は)にのせないし
思い出しもしない
私はときどき呟いてみる
むかし暗記した古風な訳の方で
〈絶望の虚妄なること まさに希望に相同じい〉