苦しみの日々 悲しみの日々
苦しみの日々
悲しみの日々
それはひとを少しは深くするだろう
わずか五ミリぐらいではあろうけれど
さなかには心臓も凍結
息をするのさえ難しいほどだが
なんとか通り抜けたとき 初めて気付く
あれはみずからを養うに足る時間であったと
少しずつ 少しずつ深くなってゆけば
やがては解るようになるだろう
人の痛みも 柘榴(ざくろ)のような傷口も
わかったとてどうなるものでもないけれど
(わからないよりはいいだろう)
苦しみに負けて
哀しみにひしがれて
とげとげのサボテンと化してしまうのは
ごめんである
受けとめるしかない
折々の小さな刺(とげ)や 病(やまい)でさえも
はしゃぎや 浮かれのなかには
自己省察の要素は皆無なのだから
茨木のり子『倚りかからず』(筑摩書房,1999年) より