『海を感じなさい ~次の世代を生きる君たちへ』 より
元立教中学・高校校長 渡辺憲司著,朝日新聞出版
友情とは?
冷たい風に頬を差し出してみなさい。
冬の海原を渡る風に頬をさらし,
沈黙の腹に落とし込むのだ。
そして,友の顔を思い浮かべてみるといい。
これまで,君には,助けた友がいたか。
君を助けてくれた友がいたか。
友情とは何だ?
もたれ合い,群れるのが友情ではない。
趣味の合う同好の士とも違う。
互いに,一人であることをわかり合うのが友情である。
互いに孤独であることを深く理解し合っているのが,真の友だ。
偶然が本能に火をつける恋愛関係とも明らかに違う。
友情は理性が築く。
自分とは違うものをもつ相手を,理性的に意志的に選ぶ。
それが友だ。
だから,友情はときに冷たさを見せる。
あるときは,「それは間違っている」と正面切って批判もする。
「君とは一緒に行けないよ」と道を分かつこともある。
しかし,それでも友情は残る。
そこにあるのは,けっして残りかすのような友情なんかじゃない。
批判や離反も含めたまるごとの関係が,
友情そのものなのだ。
フランスの詩人ボナールは言う。
「恋愛では信じてもらうことが必要であり,
友情では洞察してもらうことが必要である」と。
君の心を,思いを深く黙視してくれるのが友だ。
「今日,海を見に行ってきたよ」
そうポツリともらしたときに,
黙ってうなずいてくれるのが友だ。