英語の単語には「意味」が重要なものと,「働き」が重要なものがある。名詞・動詞・形容詞などは前者であり,助動詞・接続詞・前置詞などは後者である。「働き」が重要な単語は,中学の段階で大部分が出つくすために,やさしいし,もう分っていると思われることが多い。いや,その種の単語が文中に現れるのは何かのはずみ,せいぜい口調によって決まることだから,いちいちかまっている必要はない。難しい単語の意味さえ分かれば,それをどうつなぐかは「カン」と「想像力」の問題だと考えている人さえ多いのである。正確な意思伝達を目指す言語の基本が,個人によって異なるカンや想像力であっていいはずはない。実は,やさしいと思われている「働き」中心の単語こそ重要で難しいのであり,意味を中心とする単語をそれらが一定の約束に従って縫い合わせるところに,文章の不動の意味が生まれるのである。
伊藤和夫『英文解釈教室』(研究社)より