渡辺憲司著
「海を感じなさい ~次の時代を生きる君たちへ」より
松尾芭蕉の句に、次の一句がある。
命二つ中に活きたる桜かな
二十年ぶりに友人と会ったときの思いを刻んだ句だ。
命あって再会することがてきた二人の間に、
桜がいきいきと咲いている。
描写の場面としてはそんな解釈になるが、芭蕉の本意はもっと深い。
わが身の命を自分一人の命ではなく、
もう一つの命に支えられた「命二つ」としてとらえているのだ。
それを歓び、桜に重ね合わせたのだ。
命二つ。君たちは、そんな心境になったことはあるか。
親と自分。友達と自分。彼女/彼と自分。他者と自己。
それぞれが、互いの命を自分の中に抱えながら、
私たちは「命二つ」として生きているのだ。
命一つて生きていくのではない。
自分にかけがえのない命は、相手にとってもかけがえのない命だ。
「命二つ」とは、相手の心に近づき、
その心に自分を重ねること、
そうして互いの尊厳を認め合うことでもある。
わが身に宿る「他者の命」を感じなさい。
桜の幹に触れながら、想いを馳せてみなさい。
親の命を。友の命を。
やがて出会うはずの、愛する人の命を。
一生会えぬかもしれぬ、どこかに住む人の命を。
目を閉じて、桜の木に聴いてみなさい。
二つにして一つの、命のつながりを。